東南アジア学会会員各位
先日お送りした池端雪浦先追悼研究集会の申し込みは9月30日が締め切りです。期日までに下記Googleフォームへの登録をお願いいたします。対面参加のお申込みいただいて、支払いにお振込みを選択されている方は、早めの振込をお願いいたします。
追加情報として、シンポジウムの報告要旨と池端先生の著作販売の情報をお送りします。
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2023年9月20日にご逝去されました池端雪浦先生は、フィリピン史研究・東南アジア史研究を長い間先導され、1998~99年には東南アジア史学会会長を務められました。下記の通り、池端先生の業績を振り返るシンポジウムを、東南アジア学会研究集会として開催いたします。また第二部として、夕方から「池端先生の思い出を語る会」を行います。会場は2001年から2007年に先生が学長を務められました東京外国語大学になります。第一部のみ、ハイフレックス形式(対面重視)で開催いたします。Zoom情報は登録された方にのみ、後日メールでご連絡させていただきます。詳細は以下の通りです。
なお、会場にて、池端先生の最後の著作『フィリピン革命の研究』(山川出版社、2022年)2割引きで販売させていただきます。
池端雪浦先生追悼シンポジウム「池端雪浦先生と東南アジア史研究」
共催 東京外国語大学
開催日時・場所
11月2日(土)東京外国語大学
13:00~16:10 大会議室
16:30~19:30 生協円形ホール
内容
第一部 シンポジウム
フィリピン史研究への貢献について
菅谷成子先生、ホセ・リカルド先生
東南アジア史研究への貢献について
伊東利勝先生、大橋厚子先生
第二部 会食「池端先生の思い出を語る会」
斎藤照子先生、宮崎恒二先生、川島緑先生、寺田勇文先生、根本敬先生、西井凉子先生、成瀬智様(東外大理事)、ゼミ生代表
対面参加費(会食費、お花代など)★対面参加者のみ
6,000円
支払い方法
当日も受け付けますが、できる限り事前振り込みでお願いいたします
振込先
ゆうちょ銀行 口座記号番号:10200-10810031
銀行から振り込みの場合:〇二八店 1081003
名義人 柿崎一郎(かきざき いちろう)
申し込み方法・締め切り
9月30日までに、以下のGoogleフォームに必要事項をご記入ください
https://forms.gle/KSE9mjyLZX9b6eEN8
連絡先:池端先生追悼会実行委員会 ikehatazemi[atmark]gmail.com
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シンポジウム要旨
Ⅰ. フィリピン史研究への貢献について
1.菅谷成子(愛媛大学名誉教授)
「日本におけるフィリピン史研究の地平を開いた先覚者―池端雪浦先生」
池端先生が1960年代に研究に着手された当時、歴史研究の分野において東南アジア地域は、未だ必ずしも固有の研究対象として認識されていなかったが、先生は、当時の世界情勢から、東南アジアにおけるアメリカのプレゼンスに着目された。先生は、それを起点に独立国家としてのフィリピンを対象とした歴史研究に着手され、日本における東南アジア史研究を確立すべく、フィリピン史研究の地平を開かれたのである。
上記の事情もあって池端先生の研究関心・ご業績は多岐にわたり、緻密な史料分析や史料批判を実践しつつ、フィリピン史を開拓されたが、それらは、フィリピン民族意識の形成過程の研究に収斂され、レイナルド・イレートの業績なども参照しつつ「フィリピン革命史研究」に結実した。その一環として、特筆すべきは、フィリピン国立文書館において、聖ヨセフ兄弟会に関する厖大なタガログ語文書を発掘され、その解読、詳細な解釈に基づいて、スペイン領フィリピンにおける植民地社会における中下層の人びとのカトリシズム信仰のあり方を分析された。それに基に、スペインの住民支配の手段でもあったカトリシズムがスペイン支配に対する異議申立てや革命に繫がる「カトリシズムの逆説的機能」を有するに至ったことを明らかにされた。すなわち、フィリピン革命は、アメリカ植民地期を通じて形成された歴史認識でもあった、西欧的知性の体現者である植民地社会のエリートが必ずしも一貫して主導したものではなく、それぞれの階層に属する人びとがカトリズムの世界観を参照枠組みとしつつ、それぞれの立場で主体的に参加した重層的な歴史過程であったといえる。
- Ricardo T. Jose (Professor, University of the Philippines Diliman)
Ikehata-sensei’s contribution to Philippine History (20th century Philippine history)
Ikehata-sensei has been recognized as the Dean of Philippine historians in Japan. I will discuss her major published works, in English and Japanese, that contributed significantly to Philippine historiography, as an individual researcher and also as the leader of several research groups. These research groups were composed of both Japanese and Filipino scholars, and these joint research projects were extremely important in furthering Philippines-Japan scholarly exchange and understanding. Beyond historical research works, Ikehata-sensei nurtured many Japanese and Filipino (and other nationalities as well) in historical methodology, stressing the importance of primary sources in various languages.
Ⅱ. 東南アジア史研究への貢献について
- 伊東利勝(愛知大学名誉教授)
「内なるアジアと向き合って ―池端先生の東南アジア史学―」
先生の研究は、自らの社会的位置、そのなかで身体化されてしまった価値観、そしてどのような政治性のもとに動かされているのかを知るための営為であったともいえる。
それは欧米の植民地下に生きた人びとが、「被奪」状態にある日常のなかで、自己を救済するため、支配の過程で教え込まれたイデオロギーを逆説的に使って、「自らの存在様式全体の根本的変革をもたらす言説を構築し」、新しい社会を生み出すための行動に転じていくすがたを描き出すことによって進められた。
「伝統的」思想だけでなく、押し付けられた「外来の要素」であってもこれをダイナミックに取り込み、社会を活性化させようとする運動の発見は、その先に、あり得たかも知れないもう一つの脱植民地化に向かう道が開けていたことを我われに知らしめるものであった。
そして実際に展開した独立へ向けての動きを、自由・平等・民主主義からの距離ではなく、着手された国民国家プロジェクトを批判的に読み解き、そのシステム自体に内包されている一元化や「異文化」排除の動きを確認することにより、ナショナリズムそのものを相対化していった。
さらに「民間交流」なるものも国家の論理によって動くことが示され、日本の占領は、結果的に独立を促進したとする「戦争責任論」に異をとなえ、「共栄圏」諸国はそれによって、「先進」資本主義諸国への従属をさらに深めることになるという視点の重要性を説かれた。
このように、あくまでも自らの境界性に立脚しつつ、近代主義や国民国家の呪縛に囚われている近現代史研究や社会観を脱構築することにより、東南アジア地域の歴史研究を領導し、ポストコロニアリズムへの扉を開かれた。
- 大橋厚子(名古屋大学名誉教授)
「東南アジア史を守るために戦ったリーダーと時代背景」
池端雪浦氏は、東南アジア史研究者として1960-2000年代を懸命に生き戦った方であった。本報告では報告者世代(1950年代半ばから60年代初め生)を中継世代として、より若い方々に池端雪浦氏の何を申し送るかを考え、問いかける。聴き手は、人文系歴史学ばかりでなく人類学・地域研究の中堅・若手・学生を想定している。初めに東南アジア史概説に臨んだ氏の真摯な態度のうち、現在再現可能・困難な点を取り上げ、研究者の置かれた時代状況の差を考える。ついで氏が何に対して東南アジア史とその研究を守らなければならなかったかを、当時の状況とともに振り返る。最後に氏の限界として、ランケを始祖とする近代歴史学と氏の研究姿勢との関わりをのべ、歴史学について氏が守りたかったこと、それが時代の大きな流れには合致していなかったことを示す。しかしそれは氏ひとりの問題ではなく、思想や社会の大きな構造上の問題であり今も続いていることを述べ、現在私たちがなすべきことを考える。