公開講演会 【日本企業とアジアの挑戦】 のご案内

当研究所では、所内に設置されている17部門の共同研究プロジェクトの研究成果を一般に還元する目的で、公開講演会を年4回程度開催しています。今回は、1977年以来続けてきたその公開講演会の回数が100に到達する回となります。「日本企業とアジアの挑戦—コロナ後の復興に向けて—」を主テーマに、京都発の企業である株式会社ナベル・取締役会長の南部邦男氏と、長年アジア経済の動態分析に取組んでこられた大泉啓一郎氏を講演者として、以下のような内容で開催致しますので、ご関心の方々に多数ご参加いただけましたら幸いです。

日 時  *2021年11月1日(月) 13:00-16:00*

場 所  同志社大学今出川キャンパス*良心館305教室*、並びに*Zoomによるオンライン開催*
http://www.doshisha.ac.jp/information/campus/imadegawa/imadegawa.html#campusmap
参加申込  *事前に*、以下のフォームからお申し込みください。
https://forms.office.com/r/X0wpzzsk1i
報告者、及びテーマ (講演会テーマ: *日本企業とアジアの挑戦―コロナ後の復興に向けて―*」)
① *南部 邦男*(株式会社ナベル・取締役会長)
「*日本企業の誇り―東南アジア・マレーシアでの経験から―*」
② *大泉 啓一郎*(亜細亜大学アジア研究所・教授)
「*アジアのデジタル化―コロナ後を見据えて―*」

講演会の趣旨と各講演の要旨
【公開講演会「*日本企業とアジアの挑戦—コロナ後の復興に向けて—*」の趣旨】
今、世界中で、新型コロナウィルス、特にその「変異株」が猛威を振るっている。感染拡大防止のために市民生活には様々な制約が課され、企業の活動にも影響が及び、経済の大部分が後退・停滞を余儀なくされている。しかし、現状に対処し困難を解決しようとする挑戦、将来の復興を見据えて改革を行おうとする挑戦は、危機のさなかにすでに始まっている。
今回の講演会では、日本企業とアジア諸国が、これまでどのような問題に直面しその解決のためにどのような取組みをしてきたのか、そしてそう遠くない将来にどのような復興を展望し、今新たにどのような取組みを始めているのかに焦点を当てる。講演者は、京都で起業されアジアに活躍の場を広げてきた企業の経営者と、長年アジア経済の動態分析に携わってきた研究者である。日本とアジアを結んで成長を遂げてきた企業の経験と、日本以外のアジアにおけるデジタル化の取組みを重ね合わせることで、私たちが、今後コロナ禍を乗越えていかなる経済のなかで生きていくことになるのかについて考える。
なお、今回の企画は、同志社大学人文科学研究所第20期部門研究会第4研究「ASEANの連結と亀裂の研究:供給連鎖・資源・領有権の東アジア的地経学・地政学」(代表者:林田秀樹(同志社大学人文科学研究所))の研究活動の社会還元を目的としている。

【*南部邦男*「*日本企業の誇り―東南アジア・マレーシアでの経験から―*」要旨】
マレーシアに鶏卵の自動選別包装装置のメンテナンス拠点を設立するために、当地に広大な土地を有していた大手家電メーカーの下請けである日系企業(本社は京都)を丸ごと買取ることになったのが2002年である。もともとはその工場の一角にナベル・マレーシア事務所を置く予定だったのが、「丸ごと買取って欲しい」と言われて悩んだ末に応じたのだ。戦後教育で「我が国は第二次大戦で東南アジアに対して極悪非道な行為をした」と教えられていた私にとっては予定外の海外進出であった。
買収した企業は現地ですでに10年の歴史を持っており、社長を含め二人の日本人が赴任していた。彼らは我々の期待通り「誠実で仕事熱心な日本人」であった。また従来の大手家電メーカーの仕事が継続することもあり、引き続き社長と技術部長の立場で仕事を継続してもらうことにした。現地社員にそのことを宣言しナベルの海外現法はスタートした。
2002年から今日まで事業は順調に推移している。社長には買収後6年ほど社長を続けてもらい、その大手家電メーカーの撤退もあり定年で退職、後継者として現地の華人系マレーシア人に就任してもらった。「会社は社員とその家族のものであり、地域とその国のためのものである」という価値観を創業時から標ぼうしている我々には、マレーシアの次期社長を現地社員の中から選ぼうというのは自然な流れであった。マレーシア工場はマレーシアの社員と家族のものであり、マレーシア国のものなのである。
この考えは「自立分散経営」とでもいうのだろうか。コロナ渦の今でもワクチン同様有効である。これは「株主中心主義」にはなじまないが「老舗経営」には通じるものがあるように感じる。急な拡大を求めず安心して仕事ができる環境を作ることが今後も我々の海外戦略、事業戦略の要である。

【*大泉啓一郎*「*アジアのデジタル化―コロナ後を見据えて―*」要旨】
世界経済は、新型コロナウィルス感染拡大のなかで、大幅な減速を余儀なくされている。当初はその影響が軽微だったアジアでも、2021年に入ってからデルタ株の感染拡大によって経済の先行きが不透明になってきた。
それでもアジアの経済成長は続く、というのが大方の見込みである。
アジア経済の世界に占める割合は、2000年の22%から2020年には30%に上昇した。IMF(国際通貨基金)は2026年にはさらに32%に拡大するとみている。
これまで日本は、アジア諸国との関係を強化することで持続的成長を実現してきた。これは今後も変わることはない。むしろ、より一層の関係強化が求められよう。
そうであるならば、私たちは、アジア各国で起こっていることを詳細に観察し、それぞれの活動を適切なものへと変化させていかねばならない。
なかでも、コロナ禍で、非接触型技術であるデジタル技術を利活用したビジネス・ライフスタイルが加速度的に普及していることに注意したい。アジアのほぼすべての国で、携帯電話の契約件数が人口を超えており、人々はスマートフォンを介してDX(デジタル・トランスフォーメーション)を同時に体験している。ネット通販、配車アプリ、食品のデリバリーはすでに一般化し、日本では遅れている遠隔診断、遠隔教育も進んできた。
このような経済社会のデジタル化の進展が、グローバル化のかたちを変える力になることは確実である。だから、日本でもコロナ後のデジタル化を見据えた準備を怠ってはいけない。
今回は、皆さんと一緒に、アジアでの日本の立ち位置を確認し、デジタル化を中心に今後のあり方を考える機会にしたい。

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